みなさん、あけましておめでとうございます。
2018年より、SUSONOは本格的に始動いたします。社会に居心地の良い場所をつくり、新しい価値を生み出していけるようなコミュニティをみなさんと一緒に築いていければと思います。どうぞよろしくお願いいたします!
今回は新年の特別企画として、佐々木俊尚さんによるインタビュー記事をお届けしますね。
インタビューのお相手は、オンラインサロン プラットフォーム「シナプス」を立ち上げ、人気サービスへと成長させた田村健太郎(たむけん)さん。現在はシナプスをDMM.comに売却され、新しいサービスの立ち上げ準備をされています。
SUSONOが本格始動する前に、「コミュニティ」にはどんな可能性があるのか? というヒントを得るために、長らくコミュニティサービスの最前線で活躍されてきたたむけんさんにお話をお伺いしました。
これまでの知見から見えてきた新しい時代のコミュニティ作りのルールや、社会においてコミュニティはどのような役割を果たす可能性があるのか? わくわくする未来へみなさんをご招待します!
<プロフィール>
田村健太郎(たむけん)
連続起業家、MINT株式会社 代表取締役
1986年、福島県出身。一橋大学在学中にモバキッズ社(のちのシナプス社)を創業。モバイル向け受託開発、各種コンテンツ配信サービスの開発、運営・制作などを経て、2012年にオンラインサロンのプラットフォーム「シナプス」を立ち上げる。2017年にシナプスをDMM.comに売却。現在は評価経済社会の中で、がんばる個人や事業者がファンを集めて躍進できる仕組みを実現する新たなサービスの開発を行っている。
Twitter: @tamuken [https://twitter.com/tamuken]
Blog: http://blog.tamuken.info
VALU: https://valu.is/tamuken

「面白いことを言う人たちが消耗するのではなく、
活躍できる仕組みを作りたかった」(田村)
佐々木(以下、佐):コミュニティサービスをはじめてプラットフォーム化したのがシナプスだったと思うんですけど、いつ頃から始めたんですか?
田村(以下、田):サービスを開始したのが、2012年の4月くらいですね。
佐:すごい、そんな前からやってたんだ。
田:いま考えると、かなり早かったですよね。
佐:当時、コミュニティとかサロンをやっていた人はいたんですか?
田:いわゆるファンクラブ的なものはあったんですが、有料のコミュニティをやっている方はほぼいない状況でした。
佐:立ち上げのきっかけはなんだったんでしょう。
田:当時、僕のまわりによく炎上する系のブロガーの友人が何人かいまして。その中のMGさんという方がはてなブログで炎上した時に、自分を応援してくれる人たちだけに発信したい、という相談をたまたま受けて。
月に1000円くらい出してくれる人だけのコミュニティを作って、そこに情報を提供していくというような。
佐:なるほどね。当時は音楽が売れなくなってきた時期で、ミュージシャンが月額の会員制でファンとコミュニケーションを取るというようなことは多かったと思いますが、それをプラットフォーム化して、ビジネスとして成立させるっていう発想自体が新しかった。勝算はあったんですか?
田:あまり勝算は考えてなかったです。もともとはnoteのようなコンテンツ販売ができるシステムを作っていたんですが、MGさんの相談にのっているうちに、コミュニティにシフトしていった感じですね。
佐:結局、MGさんのコミュニティはうまくいったんですか?
田:はい、100人くらいはすぐに集まりまして。
佐:おお、それはすごい。2012年くらいって、オープンなインターネットへの疲れみたいなものが出てきた頃ですよね。2009年くらいからツイッターが日本でブレイクし始めて、2011年に震災が起き、そこから一気にバっと広がって。オープンなインターネット空間における炎上リスクが、ものすごい勢いで高まっていった。
そんな時に、クローズドな空間の安心感や親密な距離感に対する期待値ってあったんじゃないですかね。
田:そうですね。面白いことを言っている人たちが消耗していって、当たり障りのない言説が多くなってしまって…。やっぱり僕はインターネットが大好きな人間なので、前者のような面白い人たちに活躍してほしいっていうのはありました。
佐:どんどん炎上していっても、気にせずに拡大してけるっていう人はかなり特殊だし。
田:そうですよね。でもファンの人にちゃんと応援してもらえっている実感があれば、結構続けられるっていう話はあって。その具現化の一つの方法として、月額制のコミュニティというのがあったんですよ。

「面白いコンテンツを生み出せる人と
コミュニティを活性化させる人は別だと思う」(田村)
佐:僕も議論型コミュニティLIFE MAKERSをやって、その感覚は確かにありました。ただ2年半くらい経ってくると、最初の頃の良い状態のまま継続性をもたせるっていうのが、意外と難しいなというのもあって。
田:継続性に関しての仮説の一つとして、面白いコンテンツを生み出せる人とコミュニティを活性化させる人って、別なんじゃないか? というのがあります。継続させるためには、両方の力が必要で。
佐:おっしゃる通りだと思います。
田:たまにその両方ができる大スターがいますが、ごく少数ですよね。たぶんはあちゅうさんとかは両方できる人なんですよ。
佐:一人ですべてまわすんじゃなくて、能力を補い合えるような人を仲間にするとか、組み合わせるってことですよね。
田:それが理想的だと思います。今回佐々木さんたちがやられる「SUSONO」は、それこそ松浦さんもいれば、灯台もと暮らしや箱庭さんのメンバーもいるということで、役割りが分担できそうでいいですよね。
佐:そもそも考えてみれば、会社ってそうですよね。営業マンしかいない会社とか、開発者しかいない会社だったら、そりゃ上手くまわらないわけだから。
田:はい、カリスマ社長だけでもだめですしね。サロンに特化した編集者、コミュニティマネージャーのようなポジションが必要ですよね。
佐:そうですよね。ちなみにコミュニティマネージャーってどういうスキルが必要なんでしょうか。
田:メンバーさんのことをよく理解し、いろんな方に声をかけたり、リアクションをしたりと、細かくコミュニケーションをとれる人ですね。
佐:見ていると、やっぱりどうしても無口な人とか発言力の乏しい人は影が薄くなり、声の大きいコミュ力の高い人が目立つ、というのはありますよね。
田:そうですね。目立っている人ばかりにフォーカスするのではなく、あまり目立たない人にもちゃんとスポットライトを当てるようなコミュニケーションが大事ですよね。
佐:普段は無口でも、ポロっと大切なことを言うような人もたくさんいますからね。その声を拾い上げるのはコミュニティだけではなく、今の社会全体に必要なことだと思っています。
そう考えるとコミュニティマネージャーって、新しい仕事だけど、これからますます重要な役割になっていきませんか。
田:はい、コミュニティだけではなくメディアやサービスなどでも、重要な仕事になっていくんじゃないでしょうか。
佐:なんとなく盛り上がりを仕掛ける人っていうと、ウェイ系をイメージしちゃうじゃないですか。でもそうじゃないってことですよね。
田:そうですね、細やかな気配りができるような人の方がいいですよね。
佐:あとはリアルなイベントとインターネット上のコミュニティと両方があるので、両方のスキルやリテラシーも必要ですね。

「最近は地方開催のイベントの方が熱量が高い。
コミュニティへの期待値があるのかもしれない」(佐々木)
佐:シナプスって今、規模的にはどんな感じなんですか?
田:サロン数で250くらい、会員数でいうとアクティブで1万人ちょいぐらいですね。
佐:結構広がっていますね。成功しているサロンっていうと2000人くらいのメンバーがいるという堀江さんのところですか?
田:そうですね。堀江さんのところはファン層がいいんですよ。いわゆるスタートアップ界隈の人ってほとんどいらっしゃらない。どちらかというと個人事業主でバリバリ稼いでます、自分で事業をやってます、のようなちょっとマッチョな感じの人が多くて。だから一度繋がったら、アクションが起こりやすいんですよ。
お金も稼いでいて仕事も遊びも全力です、みたいな人のカリスマに堀江さんがなっているんでしょうね。
佐:堀江さんのサロンは地方の人も多いんですか。
田:地方の人も多いです。でもあまり場所にとらわれない人が多いですね。なにか面白いことがあったら、どこでもすぐに行っちゃうような。
佐:確かに地方の熱心な人ってフットワーク軽いし、熱量が高いですよね。最近は地方でイベントを開催した方が、ちゃんと人も集まるし、盛り上がることが多い。
やっぱり日本社会全体のコミュニティ感が薄れてきている中で、そこへの期待感はあるのかもしれないですね。東京はちょっと集まれるような機会がたくさんあるから、逆に飽和しちゃってて。
田:そうかもしれません。SUSONOもそうですけど、オンラインがあるから事前に雰囲気も確認できますしね。
ほんとに感覚の近い人がいるかどうか、繋がりたい人がいるか、などを確認した上で、東京のイベントに参加するとリスクも低いですし。逆に地方開催のイベントに、東京から行く人が増えても面白いですよね。
佐:そうやって地方の人も東京の人も混じり合いながら、一つの方向性を目指していくのが理想ですよね。もともと同じような文化感を持った人たちが集まっているのだから、ミスマッチは起こりにくいので。

「すべてをクローズドにするのではなく、
外に出していくことでコミュニティは広がる」(田村)
佐:一つ懸念しているのが、コミュニティがうまくいったらいったで、どんどんクローズドな世界で島宇宙化してしまう。そのあたりってどう考えてますか?
田:ポイントとしては、コミュニティ内のコンテンツの扱いが重要になってくると思っていまして。シナプスをやり始めた最初の頃も、クローズドのコミュニティだからということで、情報を外に出さないように意識していたんですが、それではやっぱり運営側もメンバーさん側も広がりが出てこない。
やっぱりオリジナルのコンテンツをちょっと時間が経ってから、あるいは軽く編集を加えて、外に出していくような仕組みは大事だと思います。
佐:そうそう、確かにすべてをクローズドにしてしまうと、コミュニティ全体としての広がりがなくなるんですよね。
田:はあちゅうさんが今度出す旅の本があるんですけど、これはコミュニティ内で制作過程をすべてシェアし、メンバーさんと一緒に作り上げていくようなアプローチで。その後、普通に書店でも販売されます。
コミュニティ参加者へは一緒に制作していく体験を価値として提供し、出来上がった本自体は一般に流通させるという。
佐:それってコンテンツとコミュニティの一体化のような感じで興味深いですね。そうやって、クローズドとオープンの切り分けをうまくやっていくっていうのが大事なんでしょうね。
田:そうですね。メンバーの方にも引用などはどんどんやってもらって良いと思いますよ。すべてのコンテンツを外に出すことはできないですから。その方がメンバーさん自身も、新しい発見や繋がりますし。
佐:共有は自由ですよと。
田:はい。共犯関係じゃないですが、メンバーさんと運営側が一緒になって、コミィニティを広げたり、時には守ったりしながら作り上げていくことが大事なのかなと思います。
佐:仲間意識を育んでいくってことですよね。

「真っ当な議論をできる場を確保し、多くの人に伝えることを、
真剣に考えなければならない」(佐々木)
佐:コミュニティって、これから社会の議論とか言論の空間を設計することにおいて、結構重要な意味を持ってきそうですよね。というのが、前にネット炎上の研究で話題になったデータがあって。
実はネット炎上に参加している人って全体の数%しかかいない、みたいな。
田:どの炎上も同じ人の場合が多いですよね。
佐:ある研究報告で面白かったのが、たぶん炎上するのは何でもかんでもオープンにしているからだ、と。だからといってクローズドで議論してしまうとその中だけで終わってしまうから、議論を見るだけの人と参加できる人を分けた方がいいんじゃないかっていう話があって。
田:それは良さそうですね。
佐:炎上系の人は、読めるけどクソリプを飛ばせない(笑)、みたいなね。あるいはもうちょっとグラデーションがあっても良いかもしれない。コミュニケーションレベルが何段階もあった上で外の世界と繋がっていく、みたいなことも今後あり得るのではないかと。
田:それは面白い発想ですね。無料会員登録すれば読めます、くらいの感じでも結構防げはしますけど。何か叩きたいっていう人たちって、手軽に流れてきたもの叩いてるっていうだけなので、何かしないと読めないものは見ないんですよね。一個ハードルを挟むだけで、ぜんぜん違うようにも思います。
佐:確かにそれはありますね。それでいうとコミュニティって、やはりふた手間くらいは掛かっている空間なので、良質な議論をしやすいですよね。
田:それは大いにあると思います。
佐:真っ当な議論をできる場をちゃんと確保して、しかもそれをどう多くの人に伝えていくか、ってことを真剣に考えないといけない時代がきている。
田:有料のコミュニティが必ずしもその場になるかはわかりませんが、まったくのオープン、ちょっとハードルがある、完全にクローズドなどと、いろんな手段がうまく使い分けられると良さそうですね。
信用情報をデータ化して、人によって見える、見えないが違うとか、この人はよく炎上させる人だから会員登録はできないけど見える、とか。そういうのを勝手に判別してくれるシステムがあるといいんですけどね。
佐:ソーシャルの信頼度で、読めるか読めないかに影響があるという。
田:正しく生きていればよりメリットになるけれども、そうじゃないと難しくなる…という。
佐:中国ではソーシャルの信頼度でクレジットも決まってくる、みたいな話がありますよね。

「優秀で勤勉な人たちがちゃんと評価されたり
恩恵を受けられるような仕組みを作りたい」(田村)
田:実は今、それに近いようなシステムを開発しているんです。店舗やコミュニティなどで、だれでも簡単に使えるトークン系のサービスなんですが、最終的にはデータをたくさん溜め込んで分析し、いい人に対して特別な体験を提供できる、といったようなことをやりたいと思っていて。
あらゆる行動に対してそのリワードを付与することで、いつも来てくれる人や何かアクションを起こしてくれた人にちゃんと恩恵があるような。
佐:それは素晴らしい仕組みですね。
田:オフラインでもオンラインでも、コミュニケーションの濃淡って、なかなか把握するのが難しいじゃないですか。それをしっかりと把握できるように、データを蓄積して分析できる仕組みを作れば、運営側もメンバーさんも満足度を上げていけるのではないかと。
佐:なるほどね。僕もツイッターでいろんな人と、いろんなやりとりをしますが、いいリプライを返してくれる人や真っ当な議論をしてくれている人に、なにかお礼ができないかなと考えることがあるので。
田:たぶん人力だけでもできないし、機械だけでも結構難しい。かなり難しいアルゴリズムになるんじゃないか、とは思うんですけど。
佐:それはソーシャルも含めた?
田:はい。例えば各人のツイッターのアカウントも、フォロワーの数とかだけではなくて、スターの付き方とか細かいところまで分析できたらと。
佐:なるほど。結局今までもソーシャルの指標は大事だと言われながら、ツイッターだったらフォロワー数とリツイート数、ファボ数ぐらいしかデータ化されてなくて。
もうちょっとこう、ツイート数は少ないけれどすごくいいこと言ってくれる人とか、ささやかなツイートしかしてないんだけど、それが人の心の支えになっちゃう人とか、そういう地道な人の評価まで踏み込めるようになるといいですよね。
田:そうなんですよね。まさにそういうことをやりたいなと考えています。評価経済社会の中で、優秀で勤勉な人たちがちゃんと恩恵を受けられるようになればと思っています。
佐:今ヘイトスピーチの問題がすごい大きくなっていて、フェイクニュースとかに対してツイッターがどんどん規制を厳しくしている。でもあれも結局、機械的にやっていて、人を殺すとか言っちゃいけませんとか、言った人が凍結になっちゃったりとか、単純すぎる感じになってしまっている。でもそこに人が介在すると恣意性が入ってしまうので、それはそれで問題が出てくる。
そこのバランスをどうするかっていうのは、結構AIとかを含めたアルゴリズムの大きな課題になっていますね。そこは乗り越えられると思いますか?
田:おそらく一つのサービスだけだと難しいとは思っています。でも複合的にいろいろなものとくっつけていけば、ある程度はいけるんじゃないかなと。ただ、例えばちょっと強めの批判と、ただ叩いているっていう人の区別って難しいですよね。
佐:確かに。それってなかなかAIでも分かんないですよね。文章だけみただけでは。そこを例えばフェイスブックで日頃どういった人と付き合っているのかとか、フレンドの関係がどうなっているとか、そういうのも含めてみていくとみえてくるかもしれない。
田:そこまで踏み込めるといいですよね。コミュニティの中でも、いいコメントをしてる人はおそらく外でもちゃんとした人だろう、というのもありますし。
佐:なんかそういうソーシャルの指標と、シナプスがやってこられたようなコミュニティみたいなのがどんどんブレンドしてくると、もうちょっと住みよい世界にはやってくるかもしれない。
田:その両輪がうまく機能すると、住みよくなりそうですよね。
佐:それはなかなかいい未来ですね。
田:はい、わくわくする未来ですね。新しいサービスでその実現に少しでも近づけるように頑張ります。
佐:楽しみにしています。
