SUSONOの5月のテーマは、「整える」でしたね。心と体の整え方についてさまざまなコンテンツを掲載しましたが、みなさん、心と体はうまく整えられましたか?

 

自分にぴったりの整え方を見つけたいけど、情報が溢れかえるネット社会では、どれが正しい情報なのかって正直分からない。どうやって、自分にとってベストな情報を選んだらいいんだろう?

 

今回佐々木俊尚さんがインタビューしたのは、医療情報メディアの裏側を明らかにした著書「健康を食い物にするメディアたち」が世間に衝撃を与えた、医療記者朽木誠一郎さん。

 

ネット社会で健康情報と向き合うために、今、私たちにできることを聞いてきました。

 

<プロフィール>

朽木誠一郎(くちきせいいちろう)

医療記者

 

1986年生まれ、茨城県出身。2014年群馬大学医学部医学科卒。メディア運営企業に入社後、編集長を経験。2015年有限会社ノオト入社、記者・編集者として基礎からライティングや編集を学び直す。2017年4月にBuzzFeed Japanに入社、医療記者として活動している。

 

掲載記事一覧:https://www.buzzfeed.com/jp/seiichirokuchiki

Twitter:@amanojerk 

 

「自分に一体何が分かっているんだろう、と怖くなった」(朽木)

 

佐々木(以下、佐):朽木さんの書かれた「健康を食い物にするメディアたち」、読みました。メディアと医療の重なる部分からこういった問題をきちんと書いた本って、他にはないんじゃないかな。

 

朽木(以下、朽):そう言っていただけて嬉しいです。その部分は書く上でも、苦労した点ですね。メディア、医療者、生活者(一般の方)の論理って、ぜんぜん違うんだなというのを改めて感じました。

 

佐:1986年生まれでしたっけ? 医学部を卒業したのは、ちょうど震災の後ぐらいですかね。

 

朽:そうですね。いろんなことが重なって、在学中にアルバイトで始めたライターになることにしました。

 

佐:たしか、Webメディアの編集長をされていましたよね?

 

朽:はい、大学を卒業した2014年から2015年の夏くらいまで、Webメディアの運営会社のオウンドメディアで編集長をしていました。ただ、当時こんな経歴で、社会のこともあまりよく分かっていないのに、「メディア編集長」「数百万PVのオウンドメディア」という風に持ち上げられることに怖さを感じていました。

 

佐:同じ時期に自分も「TABI LABO」をやっていたので、その気持ちはすごく分かります。ちょうどバイラルメディアなどが盛り上がっていた時期でもあるので、何をやっても結構ページビューがガンガン伸びちゃう感じでしたよね。

 

朽:そうですね。でも、自分に一体何が分かっているんだろうって。いくつかメディアをやる中で、さまざまな問題も経験して、ちゃんと勉強し直さないとこの道でずっと続けていくのは無理だなと感じていました。

 

「コンテンツは上澄みの部分だけをやっていると続かない」(佐々木)

 

佐:なるほど。出版社とか新聞社から来た人から見ると、コンテンツってやっぱり文化の氷山の頂上なわけで。海面には、膨大な数の教養とか変化のバックグラウンドみたいなものがあるんですよね。そこなしに上澄みの部分だけをやっていると、持続性がないんじゃないかなと自分も思っていましたね。

 

朽:Webメディアでよく表記ルールみたいなことが取り上げられるじゃないですか。「これをやっておけば大丈夫なんでしょ」と、それこそ上澄みだけで言われることが多いと思うんですけど。

なぜこのルールがあるのか、そもそも何のためにメディアがあるのか、何をしたくてやっているのか、みたいな問いへの答えがなくメディアをやっていたんですよね。少なくとも、僕は。

レールから外れてメディアで食べていかなきゃいけないから、頑張っていただけで。ちゃんとした人と話すと、思想や文化、教養みたいなものが本当に分厚くて…自分にはそれが足りないと気がついたんです。それで、「有限会社ノオト」という編集プロダクションに移り、そこから編集者ライターとして新たなスタートを切りました。

 

「これは、自分にしか指摘できない問題かもしれないと思った」(朽木)

 

佐:本でも触れられているウェルク問題が起きるまで、医療健康の分野をやろうという気はまったくなかったんですか?

 

朽:まったく!自分で今やっていても、やっぱり医療記事は大変なことが多いです。そのことが予想できていたので、医療のテーマには触れないという心づもりでやってきていました。なので、まさか自分が…という感じですよね。

 

佐:なるほど、そうだったんですね。

 

朽:ノオトで下積み編集者として一から鍛えてもらい、このまま編集者ライターとして、ちゃんと生きていけるかもしれないと感じていたんです。いろいろな取材経験もさせてもらってそれこそ何の不満もない…そんなときに起きたのがウェルク問題でした。

 

佐:ウェルクの問題を報道記事として上げるまでには、どんな経緯があったんですか?

 

朽:ウェルクのサイトを見た時、これはひょっとしたら、自分にしか指摘できない問題かもしれないと思ったんです。

 

佐:自分にしか、と思ったのは、どういう理由からでしょう。

 

朽:例えばあれって、Webメディア経験者は記事タイトルや構成を見れば、すぐにSEO狙いだって分かるんですね。でも医学の教育を受けていないと、記事の内容に問題があるかどうかまでは分からない。特に、一般的じゃない病気の内容などは。

 

医学を学び、ウェブメディア運営を経験してきた自分は、両方の視点から記事の問題を指摘することができたんです。

 

佐:確かに、難病や癌の記事だと正しいかどうかまで判断できないですよね。報道記事を出したのはいつ頃でしたっけ?

 

朽:2016年の9月ですね。ウェルクの問題を報道記事として出したのは僕が初めてだったんですが、そこからいろいろなメディアがこぞって検証を始め、反響が広がっていきました。さらに僕が続報を書いて、BuzzFeed Japanに取材を受けて。

 

佐:それで、2016年末から2017年にかけて大きなニュースになり、テレビが取り上げて…みたいな流れになったんですね。

 

「何もできていない、責任を取れていない」(朽木)

佐:騒動後、「BuzzFeed Japan」に転職したきっかけはあったんですか?

 

朽: BuzzFeed Japanを選んだのは、ウェルク騒動当時にできなかった「指摘したその先」をやりたいという思いからですね。

 

佐:ウェルクの記者会見には行ったんですか?

 

朽:行きませんでした。ウェルクの記者会見当時、どうすればああいう場に入れるのかすら、知らなかったんです。BuzzFeed Japan入社後に、「別に呼ばれてなくてもとりあえず行くんだよ!」って言われて、そういうものなのか…って(笑)

騒動で数百人が一斉に仕事ができない状態になって、偉い人たちがあんなに頭を下げている…。実は、友人もあの企業に勤めていました。それを僕は、ぜんぜん関わることのできないテレビの向こう側として眺めていたんですね。


佐:それに対しては、どういう気持ちでしたか。


朽:悔しいというより、「責任を取れていない」と感じました。万が一、騒動を苦にして関係者の方が命を絶ったりしていたら、きっと悔やんでも悔やみきれなかった。

 

佐:自分が火をつけたわけだから、最後まで見守りたいと思いますよね。

 

朽:そうですね。何も出来てないじゃんって思ったときに、BuzzFeed Japanがウェルクの取材をした時のことを思い出しました。BuzzFeed Japanは、その後の報道を牽引して、内部文章に編集部が関わっていたのか調べたり、実際その資料を入手したりっていうのをやっていたんです。それで、BuzzFeed Japanに入れば、そういうことができるようになるんじゃないかと思ったんです。

 

佐:これからも医療健康メディアの問題を報道していくことが、朽木さんにとっての責任だということですね。

 

「普通の人にとっては、正しい情報の境目が分からない」(佐々木)

 

佐:実際に、メディアの健康情報に対してどういう風に向き合っていけばいいかも伺いたいんですが、ウェルク以降のメディアについてどう見られていますか。

 

朽:最近、特に健康系のメディアにおいて、例えば「生理を遅らせるためにわざと体調を崩す」というように、「普通に考えたらそれ書いちゃダメだよね」「出しちゃダメだよね」という記事が出るなど、『普通に考えたら』の部分が希薄になりつつあると感じています。

 

佐:でも、そこってすごいグレーな部分じゃないですか? 法律で規制するほどの話ではないですし。結局、各メディアの倫理に任されてしまっているところがありますよね。

普通の人にとっては、境目がよく分からないんですよ。例えばダイエット情報にしても、よく考えればそんなことしたら体を壊すだけだろってことが、普通にメディアに書いてあったりして。科学的に正しくないんだけど間違いとまでは言えなくて、薬機法違反でもないわけでしょう。そうすると、私たちはその正しさをどう判断したらいいんですかね。

 

朽:難しいですよね…特に医療に関しては、感覚的なものと科学的に確からしいことにかなり距離がある場合もあるので。

「健康を食い物にするメディアたち」では、今自分たちにできることとして、まず、健康になりたいという私たちの願望が狙われていることを自覚すること。そして、その上で、健康に関する情報を見かけたときには、その情報を精査することをすすめています。

 

佐:情報を精査する、なにか具体的なポイントはありますか?

 

朽:そうですね、例えばダイエットなどのテーマでよく見かける「すぐに」「楽に」「簡単に」などは、警戒すべきNGワードです。人の体というものは非常に複雑で多様です。誰もが同じように簡単に健康になれるということは、まず考えられません。

また、因果関係にも注目するべきでしょう。例えば、「メタボ検診を受けたら長生きできる」。これはもしかしたら、メタボ検診を受けるような健康意識の高い人だから長生きなのかもしれないですよね…?このような関係を無視して、AだからBと言い切るような情報も多いです。さらに、エビデンス(科学的根拠)にも強弱があり、試験管やマウスの実験結果が、そのままヒトに当てはまるというわけではありません。

このように、まずはざっくり情報をふるいにかけて、そのあと、「WHO(誰からの情報か)」「WHERE(どこからの情報か)」「WHEN(いつの情報か)」……などといった「5W2H」を精査することで正しい情報かどうかの判断をすることができると思います。

 

佐:「誰からの情報か」とありましたが、著者が医学博士(※必ずしも医師を意味しない)という肩書きでも、怪しい本は山ほどあるじゃないですか。

 

朽:そうですね。一定のラインを引かなきゃいけないのに、情報元がお医者さんであっても、単純にラインは引けないですね…。

しかし、医学や科学に関しては、今一番確からしいものが、エビデンスレベルの強弱はあるにしろ存在します。命にかかわるような重い決断については、それにのっとって取捨選択するしかない、と個人的には思いますね。

 

「フォローにはバイアスが潜む可能性を意識するべき」(朽木)

 

佐:リテラシーについてですが、報道機関がすごく混乱していた震災後、新聞記者、メディア編集者、個人関係なしに、一定数の人たちだけを信用するっていう構図が生まれましたよね。

この人なら信用してもいいかなっていう人をSNSフォローして、その人たち以外の言うことはあんまり信用しないみたいな。でも、それって人に対するキュレーションで、今度は誰を選ぶのかっていうのが難しくなってくる。

 

朽:そこにバイアスが潜む可能性があるってことを、意識する必要がありますよね。著名人によるインスタのステマがいい例で、皆ステマだと分かっていても、「○○ちゃんが言っているなら別にいいじゃん!」となってしまう。健康に関わるような情報であったとしても、好きな人だから信じちゃう、嫌いな人だから信じないということになってきて。先ほどお伝えした「5W2H」のような受け手側のリテラシーを身につけておく必要性がありますね。

 

佐:うーん、受け手側にリテラシーを求められるのは難しいですね。科学的根拠に乏しい癌治療の医師が優しくて信じてしまうっていうのは、よくある話ですよね。

 

朽:その優しさは、もしかしたら根拠がないことに対する後ろめたさからくるのかもしれない。または単純に、構造としていっぱいお金を取れるからサービスの質が上がるんですよね。かたや、科学的根拠のある治療を頑張るお医者さんたちは医療システムに圧迫され、忙しくて、患者さんとコミュニケーションする余裕がどんどんなくなっていく、という。

 

佐:確かに、現実はそうですよね。そして、苦しい時に心のよりどころにできる優しい方を信じてしまう。

 

朽:ウェルク問題をきっかけに医療記者になって、さまざまな取材を通して、そのような大きな構造的問題があることを知り、その構造をもっと広く知らせるべきだと感じました。

そして、情報の発信者に対しては厳しい目を持って、もし自分の利益のためにウソや不正確な情報を発信しているメディアであれば、「本当にそれでいいんですか?」と取材調査、報道していかなければいけないと思っています。

 

「論理よりも、情熱によって人は動かされる」(佐々木)

 

佐:昔、アリストテレスが「弁論術」という本で言っていたんですよ。人を説き伏せるには何が必要か、情熱か論理か? 結論、情熱の方が人は動きやすいと。

医学会やメディア側が論理だてて「その情報は違う!」って説明しても、ぜんぜんみんな納得してくれないという問題はずっと起き続けていますよね。

 

朽:もちろん、言うべきことは言わなければならないのですが、情報を発信する側も、情報に「好かれる」「選ばれる」メカニズムが働いていることは知っておいた方がいいと思っていて。好かれない、選ばれないのだとしたら、受け手側とのコミュニケーションに問題があるのかもしれないですよね。

繰り返しになりますが、毅然とすべきところは毅然とすべきだと思います。でも、もう少し伝え方とコミュニケーションを、時代に合わせて変えていってもいいんじゃないでしょうか。これだけインタラクティブな社会になっているんだから、一方向的な発信は、あまり意味がないのではないかと思っています。

 

「できるだけ間に入って発信していきたい」(朽木)

 

佐:BuzzFeed Japan Medicalでは、今後どういうスタンスで誰に向けてどうやって書くというようなポリシーは考えてらっしゃるんですか?

 

朽:「間に入る」というのを、よく編集部では言っています。いつも、情報の受け手側目線を忘れたくないと思っているんです。問題になっていることは、間に一度入って、できるだけ医学的に確からしいとされているものを伝えた上で、受け手側がどう感じるかも汲むというスタンスですね。

 

佐:1本のコンテンツがどれだけ読まれるかが勝負で、ある種過激なほどの明瞭さが求められるメディアの世界で、ちゃんと間に入って中間的な立ち位置を保つのって結構難しくないですか?

 

朽:難しいと思います。例えば最近、たばこの問題については、喫煙者側と非喫煙者側、両論どちら側の意見も聞きに行くということをやっています。そのことに対しての批判はやっぱりあるんですが、そこから新たに見えてくるものもあるはずだと思っているんです。

 

佐:朽木さんみたいに、専門記者としてネットメディアで報道をやるというのはすごく新しいので、今後いろいろな分野でそういう人が増えてくればいいなあと思っています。

 

朽:そうですね。またお話させていただく機会があるように、引き続き頑張っていこうと思いを新たにしました!