年始に実家に帰り、デスク周りを整理していたところ、高校・大学時代の写真が幾つか見つかった。それは懐かしいものであると同時に、うっ! という微妙な感情を、自分の頭に流れ込ませるものだった。

昔の自分を写真で見て苦痛に思う原因は、大体がその身なりにある。
なぜこの髪型なのか、そして、なぜこんな服を着ているのか……。私服はもちろん、制服の着こなしも意味不明。過去の自分を問い詰めたい。

そんな写真の中で、1枚印象的なものがあった。高校時代の1枚。その服が、まさか写真に収められているとは思わなかった。
真っ黒なワイシャツを、僕は着ていた。

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男子校で長らく過ごす人間のファッションは、2つの流派に分かれる。1つは積極的に異性を求めすぎるあまり、あまりにも攻め過ぎた格好をする者。もう1つは異性への興味を極端に失ったことで堕落し、あまりにもだらしがない格好をする者。僕は後者だった。
制服がある平日ならまだしも、休日はとても人様にお見せ出来ない格好をしていた。母親からは「みすぼらしい」と釘を刺され、妹からは白い目で見られた。でも、僕はファッションへの興味など湧いてこなかった。

そんな外野の声を全く気にせず生きてきたのだが、正月に転機が訪れる。だらだらと新聞の折り込みチラシを見たところ、ある広告が目に止まった。

そうだ、福袋を買ってみよう!

このシステムの便利さに、僕は全く気がつかなった。袋の中には、ファッションに必要なものが一式揃っている。これをそのまま着て、街を歩けば問題は無い(※厳密に言えばそうでも無いのだが)。
さっそく某衣料品チェーン店に足を運び、一通り福袋の品定めを行った。そして、「イタリア系メーカー」(※名前は忘れたが、イタリアというワードが決定打になったので良く覚えている)の福袋を買った。
その中に黒いワイシャツが入っていたのだ。

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袋から出して黒いワイシャツを見た時、ビビッ! ときた。よし、これは早速着てみよう! と思った。
まず、黒いワイシャツだなんて、これまで見たことが無かった。制服で着る白とは全く違う、というか対極。とにかく新鮮だったのだ。
着てみたら着てみたで、これは格好が良いと思った。もくもくと自信が湧いてくる。何より、この黒の重厚感に負けないようにするためには、より自分の身なりを整えなければいけない! やはり、ファッションは重要だ!

以来、休日の際はよくそのシャツを着て街に繰り出していった。着るにあたっては、寝癖を直したりだとか、朝も洗顔して肌つやを良くするとか、そういう基本的な事も初めてやってみたのだった。

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数か月後。ある休日の朝、寝間着から私服に着替えようと思った僕は首を傾げた。
黒いワイシャツがタンスに入っていない。

母親に尋ねた。まだ洗濯中なのかい? と。
衝撃的な答えが返ってきた。あんなものは捨てた、と。

僕は激怒した。朝から相当な大声をあげた。
母親の反論も凄まじかった。あんなシャツ、着ているのはヤクザかホストだけだ! と。
妹も加勢した。あんな格好、お友達に見せられない! と言い泣いていた。

数十分にわたるケンカは父親の仲裁で収まったが、結局僕は寝間着に着替え、その日はずっと枕を涙で濡らしながら、不貞寝するばかりだった。

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それ以降も、ファッションとは距離を置く日々である。やはり、無難な服を選んでいるのは、やはりあの黒いワイシャツのことが頭の片隅にあるからだな……。ふとそんなことが結びついた。
黒いワイシャツを買いたくなったり、着たくなる瞬間は、これからも無いだろう。何より、今の自分が着ても似合わない。いや、ひょっとしたら、あのシャツが一番似合っていたのは、高校時代のあの一瞬だけだったのである


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※こちらの文章は4/11にじゃ部にて開催された「ミッション遂行&共有会」にて、「テーマ:ファッションで文章を書く」というお題を遂行して生まれたものです




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