持久走が嫌いだった。

小学校から中学校までの運動会、私はいつも2位で、親友がいつも1位だった。両親の「惜しかったね」が嫌いだった。全力で走って、口の中で血のような味がするのに、「惜しかったね」なんてあんまりだ。そんな気持ちだった。

でも、本当にあんまりなのは、両親じゃなくて、持久走なんてものを学校行事に盛り込んだ先生じゃなくて、私自身だ。たとえばビリで、「やる気なかったんだね」と言われる方が、よっぽどしっくりくるくせに、競争なんてハナから好きじゃないくせに、無駄に頑張っちゃうから、疲弊する。

競争は嫌いだったけど、スポーツ自体は、好きだった。できなかったことが、できるようになること。それ自体に私は強い喜びを感じるタイプだったみたい。


特にソフトボール。6年間ピッチャーというポジションをやっていたけど、ピッチャー以外はできなかったんじゃないかと思ったりする。マウンドに立つと、私の競争相手は、他校のエースでも、目の前のバッターでもなくなる。マウンドは私にとって、ただ自分の理想を追いかけることが許された場所だった。マウンドに立つことは、パフォーマンスする感覚に近かったんだと思う。そういう、ただ自分を高める楽しさを、私はあの頃ちゃんと知っていた。

知っていたけど、やっぱり競争してしまった。強豪校にいたというのもあって、競争を求められて、競争こそ楽しくて正しい、みたいな風潮に逆らえなくて、競争が好きなフリをした。


後輩に逸材がいて、エースの席を脅かされそうになったことがある。

監督やコーチは「それでいいのか」と私の競争心を焚きつけようとしたり、たしなめたりしたけど、私はその頃ちょっと体を休ませたいくらいだったから、内心エース降格でもぜんぜん良かった。でも当時は「悔しいです」「負けたくないです」とか言ってたんじゃないかな。だってけっきょく、私は私のペースより、周りが望むペースに合わせて練習したから。私は全然変わってない、持久走が嫌いな私から、全然変わっていなかった。

高校は、途中から陸上部に入った。持久走が嫌いなくせに、競争が嫌いなくせに、なんで陸上部なんて入ったんだろう。そこんとこの理由は、自分のことなのに、今でもわからない。ただ、陸上部に入ってNさんという女の先輩に出会えたことは、ほんとうに良かったなと思っている。

Nさんは高校を卒業したと同時に渡米して、ずっとニューヨークで暮らしてる。陸上部だけど野球も好きで、桑田真澄から清原和博のユニフォームをもらえちゃうほど、「もっている人」だったりする。


Nさんは、ハイジャンの選手だった。ジュニアオリンピックに出ちゃうくらいの実力の人で、でも高校は、ずっと成績に伸び悩んでいた。それでもNさんが飛んでいる姿は、いつも楽しそうだった。バーを倒しちゃっても、楽しそうだった。私はNさんが飛んでいる姿を見て、Nさんが実際に飛んでる高さよりもずっと高く飛んで、長く空中に滞在しているように感じていた。

Nさんは部活終わり、私をよく学校の目の前にある100円寿司に誘ってくれた。そして彼女はなぜかいつも軍艦メニューのなかのコーンを選ぶ。寿司屋に来ているのにコーンばかり注文する、本当にへんな人だ。私はNさんとお寿司を食べながら、ふとNさんに、「どうしてうちの高校にきたのか」と尋ねたことがある。私とNさんの高校は、練習はわりと真面目にやる陸上部だったけど、そんなに強い学校でなければ、指導陣も手薄だったから。Nさんなら、もっとレベルの高い高校に推薦で入れただろうに。そんな気持ちからの質問だった。

Nさんは最初、「高校上がる前に、怪我しちゃったから」と言った。けれどもそのあとすぐに、「いや」と否定して、こう言った。

「自分のペースでやりたかったからかも。ハイジャン」

私はあの頃、大好きだったNさんとたくさんのことを話した気がする。でもどんなことを話したのか、じつはもうほとんど覚えていない。でもNさんの気ままなニューヨークライフがタイムラインに流れてくるとき、いつもこの日のNさんの言葉を思い出す。そして、画面越しのNさんの写真や言葉から、Nさんは「自分のペースで」を今日に至るまで本当に大切にしてきた人なんだろうな、と思うのだ。

さて、スポーツは、競争しないと楽しめないのだろうか。喜べないのだろうか。

私はずっとわからない。

ただ、今でもひとつわかっているのは、自分のペースを選んだNさんが、自己最高記録を更新して卒業していったということだけなんだ。


***さいごに***

ここまで読んでくれて、ありがとうございます。


「競争以外の、スポーツの楽しさを知りたい」。

7月26日のイベントでは、ゆるスポーツ協会の澤田さんに、こんな質問?(欲求)をぶつけてみたいと思います。


イベントURL:



懇親会では、澤田さん交え、みなさんと交流できる時間もあるので、スポーツについて、競争について、SUSONOのみんなが考えていること、ぜひ私も伺いたいです。